[管理番号:1679]
性別:女性
年齢:43歳
乳癌の疑いを指摘されてから、このページはよく読ませて頂いています。
体外受精で今年の春に出産しております。最初から母乳の出が良くなく、特に左側は量が少なかったです。
乳首マッサージを行うと左側の1本の乳管から薄茶色の出血がありましたが、すぐに母乳色に変わるので 助産師さんからも「良く見られる症状ですよ」と言われて気にしないでいました。
結局、出産2ヶ月で母乳は出なくなり、胸の張りも全くなくなってしまったので 搾乳もしないでそのまま放置していました。
出産半年経ち、何気なく搾乳してみると右側は母乳が滲みましたが、左側は茶色とピンクが混じったようなものが出てきたので、近くの乳腺専門医がいるクリニックに行きました。
マンモグラフィーで左乳頭下辺りに白く映る像があり、シコリが触れたためエコーをすると、1.8センチくらいの腫瘍が確認されました。
そのままコアニードルバイオプシーというのをしてもらい、結果が出ました。
細胞診 クラスV(invasive ductal carcinoma)
「壊死性背景に、クロマチン増量・明瞭な核小体を伴う腫大した核を有する異型細胞の増生からなる大小不整形・乳頭状・球状細胞集塊が散見されます。
同異型細胞は孤立散在性にも出現しています。invasive ductal
carcinomaとして合う所見です。」
病理診断並びに所見
left mammary gland,core needle biopsy:borderline lesion
「乳管上皮が間質成分を伴って乳頭状に増生していますが、免疫組織科学染色ではp63陽性の筋上皮細胞を伴っていました。またcytokeratin14
でも基底層側に陽性細胞を伴っていましたが、乳管上皮が重層性を増して増生する部分は陰性でした。比較的広範に壊死を伴っていますが、壊
死に伴う反応性の変化との鑑別を要します。
良悪の鑑別が困難です。follow upをお願いします。可能であれば腫瘤の摘出をお願いします。」
以上のような結果が返ってきました。
医師からは「乳管癌の可能性が高いので、腫瘤は摘出しましょう。
外来で出来る手術なので、まずはMRIを撮って広がりを確認しましょう。」
と言われ、近くMRIを撮る予定です。
検査の結果から、どのようなことが分かるのか 教えて頂けると幸いです。よろしくお願い致します。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
状況は解りました。
「1.8cmのしこり」に「細胞診」と「針生検」の両方を施行しています。
ただ問題なのは「細胞診ではクラス5」としているのに対し「組織診(針生検)では鑑別困難」となっており、その結果に「乖離がある」点です。
○細胞診と組織診の乖離
一般的に多いのは「細胞診がクラス5では無い(良性という診断)」で「組織診では乳癌」です。
この場合には「癌と確定診断」します。
細胞診は「技術が必要」なので「上手く採取できない医師もザラ」であり、このようなケースは比較的多いと言えます。
ただ今回は「全く逆の乖離」となっています。
この解釈は以下の「2通り」となります。
①「細胞診が偽陽性=つまり過剰診断」であり、実際は「乳管内乳頭腫」のような「良性病変」であるケース
②「細胞診は正しく」、針生検で「病変(の中心部)を外している」ケース
回答
「検査の結果から、どのようなことが分かるのか 教えて頂けると幸いです」
⇒上記の①か②となります。
一般的には「細胞診で偽陽性は少ない(1%以下)」となります。
つまり②>>①の可能性が高そうです。
質問者様から 【質問2】
組織診検査と針生検の結果が乖離していると田澤先生に相談させて頂いた者です。
先日は丁寧なお返事、ありがとうございました。
先日、乳房MRI造影を行なってきました。
「左乳房D領域 広範に広がる非浸潤性乳管癌疑い」という結果が返ってきました。
エコーでは1.8㎝くらいの腫瘍と言われていたのですが、MRIでは「左乳房D領域には81~37㎜大に広がるnon mass enhancementを認める。
この病変部には脂肪抑制T1強調画像で線状の高信号域を認め、血性乳汁の貯留した乳管を見ていると考える。
病変そのものはT1.T2強調画像では等信号を示す。拡散強調画像では高信号を示し、ADCmapでは拡散制限を認める。ADC値は9.98。
ダイナミックMRIでは癒合傾向の強いclumed patternを示し、区域性の分布を呈する。
あまり明瞭ではないが、後期相ではclustered ringを思わせる所見も見られる。
乳癌で広範に広がる非浸潤性乳管癌が疑われる。BI-RADSカテゴリー5」
このような結果でした。
医師からは「範囲は広いが早期の癌と考えていい。しかし、前回の組織診と生検の結果が一致してなかったので、コアニードルバイオプシーをやりましょう。」と言われました。
前回、コアニードルバイオプシーをしたと思っていたのですが、実際は太めの注射針による細胞採取だったようです。
そのため、組織がバラバラになってしまった可能性もあるため、組織がしっかり取れるコアニードルバイオプシーをするとの説明でした(マンモトームは他院依頼となるため予約がひと月先になるとのことでした)。
田澤先生が指摘された通り、組織診で出た結果(悪性)の方が正しいようです。その上、かなり大きいことが分かり、覚悟していたのですが やはりショックは隠せません。
田澤先生にお伺いしたいことは
①かなり大きいように思うのですが、早期癌と考えて本当に良いのでしょうか?
②組織採取する技術力の差で、「浸潤性か非浸潤性か 」という違う結果が出たりすることがあるのでしょうか?
③違う方の回答で、「単孔性の血性分泌なら乳管造影を行なって、区域切除。術後は放射線治療」とありましたが、私も単孔性の血性分泌があるため私にも当てはまるのでしょうか?
質問ばかりですみません。田澤先生、何卒よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
診断に不要なMRIは置いといて、「単孔性血性分泌があった」のですね。(前回のメール内容を読み返したら確認できました。すみません。)
それであれば、当然「乳管造影すべき」です。(担当医は当然の如く、しないようですが…)
回答
「かなり大きいように思うのですが、早期癌と考えて本当に良いのでしょうか?」
⇒その通りです。
「乳管内病変」として「広範囲に拡がった」だけであり、「腫瘍が大きい=浸潤径が大きい」ではないと思います。
「組織採取する技術力の差で、「浸潤性か非浸潤性か 」という違う結果が出たりすることがあるのでしょうか?」
⇒ありえます。
「病変の中心をきちんと採取できるか」それが問題なのです。
「私も単孔性の血性分泌があるため私にも当てはまるのでしょうか?」
⇒あてはまります。
○おそらく担当医は「乳管造影しない」でしょう。
ただ、「組織診により確定診断」できれば治療にはつながります。
質問者様から 【質問3】
田澤先生、いつも的確なご意見をありがとうございます。
組織診検査と病理組織診断結果の乖離があるということで、以前相談させて頂いた者です。2間前に行なったコアニードル生検の結果が返ってまいりました。
非浸潤性乳管癌の疑いから一転し、左浸潤性微小乳頭癌、という結果が出てしまいました。
ER 97.8、PgR 9.8、HER2 1+で、ルミナールB
ki 67 40.1
今は明らかな腋窩リンパ節転移はないらしいですが、シコリが触れない範囲を含めると3×8センチくらいまでになります。
5本生検したもののうち、1本から浸潤性微小乳頭癌が出て、2本は浸潤性か非浸潤性乳管癌か鑑別不能なもの、1本は非浸潤性乳管癌、1本は乳腺組織、とのことで、広がっているもの全部が浸潤性微小乳頭癌ではないようです。
浸潤性微小乳頭癌は、増殖力が強く悪性度が高いものなので、術前化学療法をした方がいいと言われました。
アブラキサンを3週間ごとに4回、その後EC療法を3週間ごとに4回、半年行なってから手術になるそうです。
田澤先生にお伺いしたいことは
①浸潤性微小乳頭癌 ルミナールBの私の場合は、術前化学療法をしてから手術をする方がいいのでしょうか?
主治医からは、抗ガン剤で癌を縮小すれば温存することも可能だと聞きました。
明らかなリンパ節転移がない今、センチネルリンパ節摘出でリンパ節転移の有無を確認して、リンパ節転移がなければ乳房全摘術を行う。
リンパ節転移が認められればリンパ節郭清+乳房全摘術をする。その後、ルミナールBに合った抗ガン剤やホルモン剤を投与する、という方法は、私には適応しないのか、と考えたりしています(私自身は、乳房全摘しても構わないと思っています)。
②術前化学療法をする場合、アブラキサンを3週間ごとに4回、その後EC療法を3週間ごとに4回、というメニューを定時されていますが、ガイドラインからも推奨されている流れなのでしょうか?
また、抗ガン剤の1回目投与が10日後です。この間に癌の転移が進むことがあるでしょうか?
③乳癌特殊型の浸潤性微小乳頭癌は悪性度が高く、増殖力も強いので、5年生存率も低いと聞きました。術前化学療法を行い、手術(部分摘出か全摘)をしたのちに術後化学療法やホルモン剤を行なったとしても、やはり生存率は低いのでしょうか?
浸潤性微小乳頭癌という、最悪な結果に正直言ってショックが隠せません。
しかし、幼い子供がいる身ですから、癌なんかに負けられないのです。
辛い治療でも未来に繋がるのなら受け入れて頑張ります。
田澤先生、アドバイスの程 何卒よろしくお願いします。
田澤先生から 【回答3】
こんにちは。田澤です。
「浸潤癌」だったとのこと。お気持ちお察しします。
ただ「微小乳頭癌」に拘る必要はありません。
そもそも「5本の内、1本だけ」では「浸潤径自体、小さい」可能性もあります。
(実際に非浸潤癌や浸潤不明が大部分なわけですから)
明らかな「過剰反応」です。
「浸潤性微小乳頭癌は、増殖力が強く悪性度が高いものなので、術前化学療法をした方がいいと言われました」
⇒全く根拠がありません。
本来の術前化学療法の適応から外れています。
また「微小乳頭癌だから術前化学療法」とか「悪性度が高いから術前化学療法」という考えそのものが誤っています。
しかも質問者はルミナールタイプ(B)なので「抗がん剤が効き易い」わけではありません。
回答
「浸潤性微小乳頭癌 ルミナールBの私の場合は、術前化学療法をしてから手術をする方がいいのでしょうか?」
⇒誤りです。
特に質問者が「全摘でも構わない」のであれば、当然「手術先行」すべきです。
「その後、ルミナールBに合った抗ガン剤やホルモン剤を投与する、という方法は、私には適応しないのか、と考えたりしています」
⇒これが正しいやり方です。
「小さくして温存」という目的でないならば、「手術先行」術後に「TC+タモキシフェン」すべきです。
「③乳癌特殊型の浸潤性微小乳頭癌は悪性度が高く、増殖力も強いので、5年生存率も低いと聞きました」
⇒特殊型のデータは「全て、少数例の報告」にすぎません。
ネット上では「さも、訳知り顔」に「微小乳頭癌はどうたら…」などとコメントが沢山ありそうですが、全く無意味です。
そもそも、質問者の場合には「浸潤径も不明」だし「組織型として優先」なのかも全く解っていません。
「サブタイプで予後を語るべきでない」が私の持論ですが、「組織型で予後を語るべきでない」のはもっと当たり前のことです。
「術前化学療法を行い、手術(部分摘出か全摘)をしたのちに術後化学療法やホルモン剤を行なったとしても、やはり生存率は低いのでしょうか?」
⇒抗がん剤は「術前か術後どちらか」に行います。(術前術後両方では行いません)
「術前、術後」どちらで行っても「予後は同じ」です。
「生存率」については「術後の病理結果」をみてから考えましょう。
針生検で「非浸潤癌や浸潤不明が複数ででている」ことから「浸潤径は小さい」のではないかと私は想像しています。