[管理番号:1788]
性別:女性
年齢:34歳
質問者様の別の質問質問が新たな内容のため、別の管理番号としました。 |
先日は丁寧にお答えいただきありがとうございました。
化学療法前の画像診断では、リンパ節転移はないと言われていましたが、化学療法中の診察で「リンパに腫れがあったんですかね?」と言われ、「初耳ですが…」と言うと「あ、そうですか。いや、大丈夫ですよ」と言われたことがあり、そこがひっかかっています。
センチネルリンパ節生検では転移はなかったと言われましたが、もしも化学療法前にリンパが腫れていたんだとしたら予後に関わって来るのでしょうか?
PCRだと予後が良いが、PCRではなかったので術後抗がん剤をしましょうと手術前から言われていましたが、病理でリンパ節転移もゼロ、脈管侵襲もゼロだったので、無治療も提案されました。
先生がおっしゃるXC療法の悪影響(有害事象)とはどのようなことですか?
UFTは適応なのに、標準治療でないのは効果がないからですか?
UFT単体では効果がないとか、トリプルネガティブには効果がわからないとかが理由ですか?
PCR症例とNON PCR症例ではNON PCR症例の方が再発率が高く、予後が悪いのは明らかであるという事実が怖くて仕方ありません。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
厳しいようですが、私から見ると問題点が3つあります。
①化学療法前のリンパ節転移の状況
そもそも、「化学療法前にリンパ節転移が疑われていた」ならば、「センチネルリンパ節生検そのものの適応」はありません。
★担当医は「術前説明」の際に、「(化学療法後ではなく)化学療法前の画像診断でリンパ節転移は疑われないので、今回手術ではセンチネルリンパ節生検を行います」と明言しなくてはなりません。
そこを曖昧にして、「化学療法後の画像診断でリンパ節の腫大が無い」ことを理由として「センチネルリンパ節生検」が行われたとしたら、大きな誤りです。
②PCRだと予後が良いが、PCRではなかったので術後抗がん剤をしましょう。というコメント
これは「大いに、誤解を生む」内容です。
担当医自身が理解していないような気がします。
「pCRであった」人達(抗癌剤が凄く良く効いた)と「pCRでなかった」人達(抗癌剤が全く効かなかった人達~結構効いた人達まで様々)を比較して「差がでる」ことは「当たり前」だと思いませんか?
そんな当たり前な事実を基に、
「まるでpCRでないと予後が悪い」みたいに考えるのは、それこそ「物事の本質を理解していない」と言わざるを得ません。
○逆にいうと、「差がでる」けれど、「pCRの人は全員再発しない」と言う事でもないし、「pCRでない人は全員再発する」訳でもありません。
抗がん剤治療は「再発リスクを減らすため」に行う治療法です。
トリプルネガティブには「この治療」というものが決まっている以上、「リスクを下げるために、決まった治療を行うべき」なのです。
「pCRでないこと」を理由に、「適応外治療を行う」ことは理論的欠陥があります。
③適応外治療
まずXC療法とありますが、(前回もコメントしたように)カペシタビン(ゼローダ)は「転移再発乳癌」しか適応がありません。
UFTは(当時の標準治療であったCMFにさえ)非劣勢を証明できなかったため、「術後補助療法としては、推奨されていない」乳癌学会推奨度C1
回答
「もしも化学療法前にリンパが腫れていたんだとしたら予後に関わって来るのでしょうか?」
⇒そもそも、「そのような事があれば」術式に問題があります。
「PCRだと予後が良いが、PCRではなかったので術後抗がん剤をしましょうと手術前から言われていました」
⇒完全な適応外診療と言えます。
術前術後の抗がん剤治療は決められています。
過剰診療は「有害事象の問題」もありますが、(保険診療である以上)医療経済上の問題もあるのです。
○薬剤の適応には「効く、効かない」もありますが、「医療保険を使う以上、そのバランスも重要」なのです。
それでも「適応外診療を行う」のであれば、本来「自費診療とすべき」です。
「先生がおっしゃるXC療法の悪影響(有害事象)とはどのようなことですか?」
⇒有害事象とは副作用のことです。
「体調不良や手足症候群、粘膜障害など」抗がん剤には副作用があります。
「UFTは適応なのに、標準治療でないのは効果がないからですか?UFT単体では効果がないとか、トリプルネガティブには効果がわからないとかが理由ですか?」
⇒かつて「標準治療だったCMFに対して非劣勢を証明できなかった」ので標準治療とはなれなかったのです。
「PCR症例とNON PCR症例ではNON PCR症例の方が再発率が高く、予後が悪いのは明らかであるという事実」
⇒誤解は解けましたが?
「そんな無意味なデータ」で踊らされても仕方がありません。
良く考えてみてください。
「抗がん剤が凄く効いた群」と「そうでもなかった群」を比較して「差がでなかったら、それこそ変」でしょう?
「結論ありきでの比較試験」と言えます。
だからと言って、「non pCRが予後が悪い」などとするのは「馬鹿馬鹿しい」
『pCRだった人に、あなたは実に抗がん剤が著効した。同ステージの人達の中では、再発率は低くなるデータがある』とお話するのはいいですが、『その逆は、誤解と(余計な)不安を与えるだけ』となります。
全員が再発しなければ「無為再発率100%」となります。
無再発率が100%では無い以上、(pCRであろうが無かろうが)「やるべき抗がん剤を行う」これしかないのです。
○私は薬剤の「適応外診療」は如何なる理由があっても断固反対の立場です。
もしも、それを(敢えて)行うとしたら
担当医には『有害事象についての責任』を。
患者さん本人には『保険外診療による自費診療』を課すべきです。
世の中から「バランスを外したら」大変な大混乱となってしまいます。
「常識の有る乳腺外科医」が、それを自ら崩すのは如何なものでしょうか?