[管理番号:2587]
性別:女性
年齢:61歳
2015年7月に左乳房全摘手術およびセンチネルリンパ節生検を受けました。
左乳がん(原発性)19~20㎜程度 浸潤性 明らかな遠隔転移なし
Stage1
センチネルリンパ節に1個の転移があり、5個摘出する。
ホルモン感受性+ HER2+ Luminal-HeR2
術後、化学療法として、
FFC療法4回(3週間に1回)
パクリタキセル12回(週1回)
これと併せて、ハーセプチン療法を3週間に1回計18回はじめてます。
今後、放射線治療とホルモン療法が予定されています。
現在、リンパ節郭清手術について悩んでおります。
基本的には、手術という方向で考えてきましたが、放射線治療とハーセプチン療法での対応も考えてよいのではというアドバイスもありました。
郭清手術後のリンパ浮腫を考えると、できれば手術を受けずにという思いが強くあります。
先生が皆様にされている回答を読ませていただき、ぜひ、ご相談したく、先に記入しました情報で十分か悩みながらも、ご判断をあおぎたいと思います。
ご多忙にもかかわらず、乳がんの患者に的確なアドバイスをされている先生の姿勢に頭が下がるのみです。
よろしく、お願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
pT1c(20mm), pN1, luminalB(HER2陽性)ですね。
現在、リンパ節郭清手術について悩んでおります。基本的には、手術という方向で考えてきました」
⇒どういうことでしょうか?
もしかして「術中、迅速診断なしのセンチネルリンパ節生検だった」のでしょうか?
通常の(術中迅速診断の)「センチネルリンパ節生検」であれば、(追加郭清が必要ならば)「後日ではなく、その日のうちに、そのまま郭清する」ことが一般的です。
「放射線治療とハーセプチン療法での対応も考えてよいのではというアドバイスもありました。」
⇒(手術に連続した郭清なら、ともかく)後日改めての「郭清手術」であれば、当然そのように考えるとは思います。
「郭清手術後のリンパ浮腫を考えると、できれば手術を受けずにという思いが強くあります。」
⇒放射線治療をするのであれば、「追加郭清なし」でもいいと思います。
(以下に、センチネルリンパ節生検の考え方を掲載します)
①SLN(センチネルリンパ節)に転移を認めない場合には「腋窩郭清は省略」する
これについては「疑問の余地」はありません。
世界のスタンダードと考えていただいて結構です。
もしもいまだに「日本の地方のどこかで(ひっそりと)明らかなN0症例に対して、センチネルリンパ節生検をせずに腋窩郭清をしている(一般)外科医が居るとしたら、非難されるべき時代」と言えます。
②SLNに微小転移(2mm以下)を認めた場合
これについても「腋窩郭清は省略する」でほぼ意思統一されている。と考えて結構です。
IBCSG 23-01(臨床試験)で934症例での「微小転移症例の非郭清と郭清群との比較」で「生存率も再発率も差がない」ことが証明されています。
これを受けて「乳癌診療ガイドライン」でも「腋窩郭清の省略が勧められる」乳癌ガイドライン推奨グレードBとなっています。
♯Bとはなっていますが、内容的にはAと思います。
③SLNに肉眼的転移(>2mm)を認めた場合
ここが、正に「議論の多い」ところです。
・SLN転移陽性患者の約半数は非SLN転移を有していない
・ACOSOG Z0011(臨床試験)では、以下の条件
「腫瘍径5cm以下で画像上リンパ節転移を疑わない」「SLN転移2個以下」
「温存手術(術後照射を行う)」「術後薬物療法あり」を満たす場合には「郭清の有無で生存率も再発率も差がない」との結果
・2014のASCOガイドラインでは「照射を行う温存手術」であれば「2個までの転移」であれば、腋窩郭清を省略すべき
これらの中で「適切な基準に基づいて腋窩郭清省略を考慮しても良い」乳癌ガイドライン推奨グレードC1となっています。
この「適切な基準」というのが各施設で様々なのが現状です。
○質問者の場合には上記③のACOSOG Z0010のケースに当て嵌まり、『2014のASCOガイドラインでは 腋窩郭清を省略すべき』となるのです。
♯質問者は「全摘」ですが、「術後照射をする」わけだから、これに完全に当て嵌まります。