[管理番号:3060]
性別:女性
年齢:43歳
お世話になります。
新規でご質問する者です。
乳がんの確定診断を受けた家内についてご相談します。
わかる情報は以下の通りです。
年齢 43
腫瘍径 約5センチ
リンパ節転移 CT分析の結果みつからず
ステージ 2A
ホルモン受容体 陰性
HER2 陽性(プラス2)
GCDFP-15 陽性
組織学的グレード 2(グレードの横に3+2+1と記載されています)
KI67 15%
コメントとして以下
豊富な好酸性胞体を有しアポクリン形質が窺われる
浸潤性増殖する硬ガン相当の浸潤性乳管がんを認め一部乳管内に病変も見られる
主治医からは、術前化学療法後の温存手術も選択できるが、乳頭部近くに腫瘍があるため、乳頭部は切除しなければならないこと、またバストサイズも小さいので全摘を勧められました。
家内とも相談し、全摘についての抵抗感がないこと、温存での局所再発のリスクも考え、主治医の指示通り全摘を選択するつもりです。
来週○曜日に手術予定です。
ご質問1
上記の様態でもし術前療法を選択した場合、腫瘍の縮小もしくは消滅の可能性がどれくらいあるのでしょうか?また、温存しても、全摘でも予後の生存率はあまり変わらないと言われましたが、その認識で間違いないでしょうか。
ご質問2
主治医からは最終的には腫瘍の病理解剖次第だが、術後の化学療法は必須と言われましたが、上記様態からどのような抗がん剤の使用が想定されますでしょうか。
抗がん剤治療期間がどのくらいになるかも知りたいところです。
主治医からは最初の3カ月で使う想定の薬剤は副作用がきついかもと言われています。
ご質問3
主治医の方は話もきちんとしていて、こちらにも色々と気遣いしてくれる方ですが、大学を卒業して3年目くらいのお世辞にも経験豊かとは言えない方で、恐らくこの方が執刀するようです。
乳がん手術の難易度がよくわからないのですが、このくらいのキャリアの方でも執刀することがあるものでしょうか。
病院自体は農協系列の大きな病院で、年間の乳がん手術件数は130件前後です。
ご質問4
どうしても予後の再発のことが気になるのですが、この様態での再発率や予後の特徴があれば教えてください。
以上、お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
田澤先生からの回答
こんにちは。田澤です。
まず一番引っかかるのは『HER2 陽性(プラス2)』という記載です。
HER2(2+)は必ず「FISH法で確認」しなくてはなりません。(75%が陰性となるのです)
HER2の評価
HER2 0, 1+ 陰性
HER2 2+ ⇒FISHで要確認
HER2 3+ 陽性
○HER2 2+はFISHで確認しなくてはなりません(ガイドラインに明記)
実際は25%でしか陽性とはなりません。
もしも「HER2 2+をHER2陽性として抗HER2療法をする」としたら、実に「75%が無駄な治療をされてしまう」ということになります。
決して許されるべきものではありません。
必ずFISHを追加してください。
「ご質問1 上記の様態でもし術前療法を選択した場合、腫瘍の縮小もしくは消滅の可能性がどれくらいあるのでしょうか?」
⇒これはFISH法をして「本当にHER2が陽性なのか」確認をしてみないと不明です。
もしもFISH陰性ならば(Ki67が低値だから、その可能性も十分にあります)術前抗がん剤は、あまり奏功しません。
_FISH陽性ならば、「かなりの確率(80%以上)で奏功」します。
「また、温存しても、全摘でも予後の生存率はあまり変わらないと言われましたが、その認識で間違いないでしょうか。」
⇒間違いありません。
「ご質問2主治医からは最終的には腫瘍の病理解剖次第だが、術後の化学療法は必須と言われました」
⇒ここが問題です。
もしもFISH陰性ならば、「明らかなluminalA」となり抗ガン剤は無用となります。
「上記様態からどのような抗がん剤の使用が想定されますでしょうか。」
⇒もしもFISH陽性ならば… 抗HER2療法(アンスラサイクリンレジメンと非アンスラサイクリンレジメンがあります)
♯FISH陰性ならば、抗ガン剤は無用です。
「抗がん剤治療期間がどのくらいになるかも知りたいところです。主治医からは最初の3カ月で使う想定の薬剤は副作用がきついかもと言われています。」
⇒もしもFISH陽性ならば…
アンスラサイクリンレジメン アンスラサイクリン(3カ月)⇒ハーセプチン+タキサン(3カ月)⇒ハーセプチン単独(9カ月) 最初の6ヵ月が通常の抗ガン剤(副作用強い)
非アンスラサイクリンレジメン ハーセプチン+タキサン(3カ月)⇒ハーセプチン単独(9カ月) 最初の3カ月がきつい
もしもFISH陰性ならば… 抗ガン剤は不要です。
「乳がん手術の難易度がよくわからないのですが、このくらいのキャリアの方でも執刀することがあるものでしょうか。」
⇒医師は研修医の頃から執刀します。(執刀しなければ、本当のキャリアにはなりません)
大学病院や○研○○などを含め、大きな病院では若手医師が沢山いて「チーム医療と言う名のもとに」執刀経験をさせているのです。(教育機関なのです)
○乳癌の手術は「下手な手術だからと言って命にはかかわらない(その意味では、群○大学病院では多くの命が犠牲となってしまった肝臓手術とは異なります)ですが、(その替り)後々の後遺症(リンパ浮腫など)などに大きな差がでます。
また出血し易い部位であり、「術中の出血もドレーンからの術後の出血も」私にはとても見ていられない手術となります。(時間も倍以上かかる)
「質問4どうしても予後の再発のことが気になるのですが、この様態での再発率や予後の特徴があれば教えてください。」
⇒まずはFISHすることです。
治療法が大きく変わります。
○決してHER2 2+で「抗HER2療法などしてはいけません」
質問者様から 【質問2】
田澤先生
お世話になります。
管理番号3060にて質問をさせていただきました。
今月前半に全摘手術を受け、一昨日病理検査の結果が判明しましたが、術前と術後で結果は大きく異なるものでした。
術前の針生検による診断は以下の通りでした。
年齢 43
腫瘍径 約5センチ
リンパ節転移 CT分析の結果みつからず
ステージ 2A
ホルモン受容体 陰性
HER2 陽性(プラス3)
GCDFP-15 陽性
組織学的グレード 2(グレードの横に3+2+1と記載されています)
KI67 15%
以下が術後の結果
腫瘍径 約1.3センチ
リンパ節転移 陰性(術中迅速診断でも陰性)
ステージ 1
ホルモン受容体 5+3 陽性(ER,PGRとも)
HER2 陰性(プラス1)
GCDFP-15 陽性
組織学的グレード 2(グレードの横に3+3+1と記載されています)
KI67 10%
結果はルミナールAとなり、主治医もこれだけ診断が変わることは滅多にないと仰っていました。
術前にがん細胞と思われていた5センチ大の腫瘍がDCIS成分の非浸潤がんで、その腫瘍の一部が浸潤がんとなっていたようです。
針を刺したときに非浸潤部分をとったため、前述の結果が出たそうです。
家族にとっては抗ガン剤治療を避けられるため、嬉しい誤算ですが、田澤先生のご経験からこのように違う結果が出ることはあるものでしょうか?
ステージ1とわかっていたら全摘を避けられたのでは、という思いもありますが、針生検の結果からはやむを得なかったと思うしかないでしょうか?
最後に、ホルモン療法については、タモキシフェン5年服用となりますが、更年期障害に似た副作用があるようですが、発現率などデータはございますでしょうか?5年という長さに少々不安を感じております。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
田澤先生から 【回答2】
こんにちは。田澤です。
病理結果良かったですね。
様々な要因があるのだとは思いますが、この場合には「手術標本」で考えていいと思います。
「家族にとっては抗ガン剤治療を避けられるため、嬉しい誤算ですが、田澤先生のご経験からこのように違う結果が出ることはあるものでしょうか?」
⇒あります。
(前医での)針生検でHER2 3+ ⇒ (当院での)術後標本でHER2 1+
というケースもありましたが、「(前医での)針生検標本を、再度(当院で)評価」したらHER2は(3+はとりすぎであり、)2+となり、「FISHで陰性」となったこともあります。
「ステージ1とわかっていたら全摘を避けられたのでは、という思いもありますが、針生検の結果からはやむを得なかったと思うしかないでしょうか?」
⇒これは何か勘違いをしているのではないでしょうか?
手術の際には「非浸潤癌の部分も切除しなくてはならない」わけですから、(浸潤径にかかわらず)「5cmの非浸潤癌の拡がり」があれば「全摘は不可避」です。
「最後に、ホルモン療法については、タモキシフェン5年服用となりますが、更年期障害に似た副作用があるようですが、発現率などデータはございますでしょうか?
5年という長さに少々不安を感じております。」
⇒ありません。
年齢やもともとの「ホルモン環境」により左右されます。
逆に言えば「多少なりとも」影響しないことはないと言えます(其の程度の差があるということです)
○ネットでは「副作用の強い人の情報」だけが出回っていて「大げさ」に書いてあることがあります。
やる前から「変な先入観」は良くありません。