Site Overlay

トリプルネガティブの予後

[管理番号:1643]
性別:女性
年齢:52歳
よろしくお願いします。
9月頭に偶然、左胸の上部内側にシコリを見つけ、近所の乳腺外来で乳癌と診断され、大学病院を紹介されました。
先日、検査の結果が出て、来週、全摘手術をすることになりました。
検査結果の詳細は以下になります。
・浸潤性乳管癌
・ステージⅠ or Ⅱa(大きさが2cm前後)
・グレード3
・ki67 90%
・トリプルネガティブ
・細胞診でのリンパ節転移無し
*画像による転移無し
治療予定:左胸全摘手術後、抗がん剤治療
質問
①トリプルネガティブは、手術前の抗がん剤治療が有効との記述を多く目にします。
術前の抗がん剤治療をしなくても問題は無いのでしょうか?
また、しないと判断する理由が何か有るのでしょうか?
②現時点での医学の世界でのトリプルネガティブの予後の悪さは、どれ位なのでしょうか?
研究が進んでおり、抗がん剤治療の効果が半分は出ているとの記述を読みましたが、じゃあ残り半分はどうなのとの不安が残り、中々ポジティブに考えられません。
再発する可能性、再発時の生存率などを教えてください。
癌と戦うつもりは十分に有りますが、戦う敵を知っておきたく、ご質問をさせていただきました。
よろしくお願いいたします。
 

田澤先生からの回答

こんにちは。田澤です。
術前抗がん剤の唯一の適応は「小さくして温存」です。
それ以外の理由「トリプルネガティブとかHER2タイプだから、抗がん剤が効きそう」というものは誤りです。
○抗がん剤が「効きそう」ならば、「術後に行えばいいだけ」なのです。リスクを冒してまで「術前に行う正当性が全くありません」

回答

「①トリプルネガティブは、手術前の抗がん剤治療が有効との記述を多く目にします。」
⇒「誤り」です。
 「術前に有効」であれば「術後にも有効」なのです。
 ♯抗がん剤は「術前に行っても、術後に行っても予後は同等なのです。
 因みに術前抗がん剤により
 乳房温存率は12%向上しますが「病勢進行例も3~6%存在」しています。
 
「術前の抗がん剤治療をしなくても問題は無いのでしょうか?」
⇒抗がん剤は「術前」でも「術後」でも、どちらでもいいのです。
 「術前に施行した方がいい」という理解は「完全な誤り」です。
 ○質問者には「小さくして温存」という目的があるのですか?
 そうでなければ(抗がん剤中に病勢進行する3~6%のリスクを負ってまで)術前に抗がん剤をする「理由が全くありません」
 
「しないと判断する理由が何か有るのでしょうか?」
⇒質問者に「小さくして温存」という意志がなければ、当然手術先行すべきです(術前抗がん剤中に3-6%の病勢進行のリスクがあるのです)
 
「現時点での医学の世界でのトリプルネガティブの予後の悪さは、どれ位なのでしょうか?」
⇒予後をサブタイプで考えるべきではありません。
 サブタイプは「ターゲット療法」のための考え方です。
 「ホルモン療法が効くのであれば、ホルモン療法」
 「抗ハーツー療法が効くのであれば、抗ハーツー療法」
 (現時点で)「ターゲットが不明であれば、(ターゲット療法ではない)通常の抗がん剤」
 これらを、無駄なく選択するためのものです。
 ○トリプルネガティブという概念は「あくまでも一過性の概念」です。
 いずれ、「有効なターゲットが発見される」中で、「細分化される運命」にあります。
 ただ単に、「現時点で有効なターゲットが見つかっていない、極めて様々な性格を持った癌の集合体」にすぎません。
 その中には(通常の)「抗がん剤が有効な集団」もあれば、「抗がん剤が不要な程、そもそも予後良好な集団」もあれば「抗がん剤が無効な集団」もあります。
   
「再発する可能性、再発時の生存率などを教えてください」
⇒現時点では不明です。
 手術をすることで「最大浸潤径」や「リンパ節転移の有無(当然センチネルリンパ節生検をする筈です)」が明らかとなってくる筈です。