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リンパ節郭清の必要性、高齢者の抗がん剤治療、腫瘍の皮膚への湿潤

[管理番号:1091]
性別:女性
年齢:69歳
母の乳がんが判明し、先生のサイトを読み込ませていただいております。
医師との面談は時間も限られており、また、当方に質問できるほどの知識もないため、今、先生のサイトを読み込み知識をつけることで、不安が少し和らいできている気がいたします。ありがとうございます。
さて先日、医師の説明を聞きにいき、術前化学療法の話もありましたが、手術先行を決めて参りました。
先生の回答を読み、「術前化学療法をしている間に手術不能となる場合」があることを知り、手術先行を決断してよかったと心からほっとしているところです。一方で、そのような重大なデメリットを医師が話してくれなかったことについては、少し不信感が芽生えております。
(ガンが小さくなることでモチベーションが上がる、効く薬がわかる等のメリットがあるとの話はありました)
さて経緯ですが、
7月末の検診でしこりがみつかり8月中旬に再検査(細胞診含む)、9/1にMRI,9/2にCTを行い、今後は9/16に乳房摘出手術予定です。
医師の説明によると
・右の乳頭に接する形で26mmの腫瘍あり。乳首周辺の皮膚へ浸潤している可能性あり
・ステージは2A、2B、3のいずれか
・リンパ節への転移は五分五分(術中にセンチネルリンパ節生検を行い転移があればリンパ節郭清するとのこと、医師のメモには(N) 0-1と記載あり)
・遠隔転移はなし
質問1
母の年齢/QOLを考えると、リンパ節郭清は慎重に行いたいのですが、例えば転移が何mm以下であればリンパ節は温存する、など一定の条件下で郭清を行わない方法はありますか?
もしそのような治療が本当にあるなら医師とももっと話したいと思います。
(乳がんの本で、転移が2mm以下であれば郭清しなくても余命に変化はないといった記載があり、本当なのか判断できずにおります)
質問2
術後の抗がん剤治療に不安を覚えております。
母はもうすぐ70歳と高齢であり(高齢の範疇に入りますよね?)、また身長153cmに体重40kgと小柄です。
術後の病理検査でサブタイプが判明してから治療方針をたてることになるのですが、抗がん剤治療に耐えられるのか不安です。
高齢ですとがんの増殖スピードも若い人ほど早くはないと思うのですが、サブタイプがルミナルAでなかった場合にはやはり抗がん剤を行うべきでしょうか。
私は遠方に住んでおり、抗がん剤治療中に生活面でのサポートはできませんので、治療の副作用で食生活など大幅に乱れてしまうのではないか、耐えられるのか、と心配しております。
質問3
ステージですが、皮膚への浸潤があるとステージ3へ上がるようなのですが、
皮膚に浸潤があるとどのような不安要素があるのでしょうか?
ステージは予後に関係があるとのことで不安を覚えております。
 

田澤先生からの回答

 こんにちは。田澤です。
 お母さんの事、御心配な気持ちお察しします。
 メール内容から、随分「乳癌治療」について良く理解されていると思います。
 手術先行で良かったと私も思います。

回答

「例えば転移が何mm以下であればリンパ節は温存する、など一定の条件下で郭清を行わない方法はありますか?
⇒ガイドライン的には「2mm」です。
 「2mm以下での郭清省略は当然」として、「2mm以上=肉眼的転移の場合にどうするか?」に関心が確実に移っています。
 担当医の説明では、「微小転移でも郭清する」ように見えますね。
 一度「真意を確認」すべきでしょう。
 (参考に)
 現時点での「センチネルリンパ節生検」と「腋窩郭清」の考え方
①SLN(センチネルリンパ節)に転移を認めない場合には「腋窩郭清は省略」する
 これについては「疑問の余地」はありません。
 世界のスタンダードと考えていただいて結構です。
 もしもいまだに「日本の地方のどこかで(ひっそりと)明らかなN0症例に対して、センチネルリンパ節生検をせずに腋窩郭清をしている(一般)外科医が居るとしたら、非難されるべき時代」と言えます。
②SLNに微小転移(2mm以下)を認めた場合
 これについても「腋窩郭清は省略する」でほぼ意思統一されている。と考えて結構です。
 IBCSG 23-01(臨床試験)で934症例での「微小転移症例の非郭清と郭清群との比較」で「生存率も再発率も差がない」ことが証明されています。
 これを受けて「乳癌診療ガイドライン」でも「腋窩郭清が勧められる」乳癌ガイドライン推奨グレードBとなっています。
                                   ♯Bとはなっていますが、内容的にはAと思います。
③SLNに肉眼的転移(>2mm)を認めた場合
ここが、正に「議論の多い」ところです。
・SLN転移陽性患者の約半数は非SLN転移を有していない
・ACOSOG Z0011(臨床試験)では、以下の条件
 「腫瘍径5cm以下で画像上リンパ節転移を疑わない」「SLN転移2個以下」「温存手術(術後照射を行う)」「術後薬物療法あり」を満たす場合には「郭清の有無で生存率も再発率も差がない」との結果
・2014のASCOガイドラインでは「照射を行う温存手術」であれば「2個までの転移」であれば、腋窩郭清を省略すべき
 これらの中で「適切な基準に基づいて腋窩郭清省略を考慮しても良い」乳癌ガイドライン推奨グレードC1となっています。
 この「適切な基準」というのが各施設で様々なのが現状です。
 
「サブタイプがルミナルAでなかった場合にはやはり抗がん剤を行うべきでしょうか。」
⇒難しいところです。
 実際は「抗がん剤の効果は70歳以上では確認されていない」のです。
 69歳という年齢とはいえ、「この考えかた」を適応することはできます。
 ただ、私なりの基準では
・ルミナールB⇒ホルモン療法のみ
・トリプルネガティブ⇒(年齢を考慮して)TC
・ハーツータイプ⇒抗HER2療法(組み合わせる化学療法はTCもしくはweekly PTX)
 となります。
 
「皮膚に浸潤があるとどのような不安要素があるのでしょうか?」
⇒大したことではありません。
 皮膚はあくまでも「局所因子」です。
 きちんと「手術で、その部分を摘出」して「術後放射線照射」をすれば、何ら問題はありません。
 
 

 

質問者様から 【質問2】

先日は、詳細に亘りご回答頂きありがとうございました。
術前の医師との面談で、「センチネルリンパ節生検で2mm以下の転移の際に郭清を省
略」するのは乳房部分切除の場合(放射線治療を行うから?)であり、全摘は該当し
ない、よって今回(乳房全摘)は、生検で微小でも転移があれば追加郭清を行うのが
病院の方針、とのコメントがあったようです。
緊張しながら手術日を迎えましたが、結果、センチネルリンパ節生検は5ケ所行い全
て転移なしで、追加郭清は行われませんでした。
今は、病理検査の結果が出る3週間後を見据えて、先生の回答を読み込ませて頂いて
おります。
細かな話ですみませんが、よく、「生存率」「再発率」「(抗がん剤の)上乗せ効
果」という言葉が出てくるのですが、これは何年を基準に出されたものでしょうか?
(たまに年数が書かれている場合があり、5年か10年なのだろうな、と思ってはいる
のですが・・・。)
また術前の医師の話では、「術後の抗がん剤は5割効果がある」とのコメントがあっ
たようです。
5割と聞くとすごい効果があると思ってしまうのですが、例えば、「10年再発率が
10%のところ5%に下がる」というようなことかな?とも思っております。
またこちらの病院では、75歳までは通常の抗がん剤治療を行っているようです。
病院によって、治療方針は大分異なるんですね。
患者側もきちんと知識を持って臨まなければならないことに改めて気づかされました。
田澤先生がこのように質問に回答されていなければ、気づくことさえできなかったと
思います。お忙しい中回答頂き、本当にありがとうございました。
また、別の方の質問でしたが、皮膚への湿潤へのご回答も興味深く拝見致しました。
 

田澤先生から 【回答2】

こんにちは。田澤です。

回答

『「生存率」「再発率」「(抗がん剤の)上乗せ効果」という言葉が出てくるのです
が、これは何年を基準に出されたものでしょうか?』
⇒10年です。